あの時もう一度同じ言葉が聞きたくてわざと、聞こえないふりをしていた。

本当に欲しいものは一生手に入らないのだとなんとなく思っている、
心の奥でずっと。

思い返せば、何かを自発的に望んだときには、
叶わないことの方が圧倒的に多かった。

小さい頃、誕生日にケーキを買って家に友達を呼ぼうとしたら
数年に一度の大きな台風が来て流れたし、
たまには自分から友達を誘って遊ぼうと思ったときは
大抵他の予定と重なっていてだめになるし、
今この瞬間どうしても誰かの声が聞きたいと思って
電話した時には繋がらない。
大切にしていた約束に限って反古になり
一度だけ、という淡い期待は、ほとんど実現せず終わる。

そんなこと、誰にでも当たり前に起こることだとは重々承知している。
けれど、それが何度も何度も経験となって蓄積してしまうと、
何かを望んではだめなんだ、という思考が形成されてしまう。

だから、何かを強く、心から欲したことはなかった。
人も、物も、環境も。
願ったらその瞬間離れ行ってしまいそうで。
今、私の周りにある全てのものは、向こうから私のところへ
転がり込んで来てくれたものだと思っている。

そして、そのものたちを、とても大切に思っているのだ。

ときどき、欲しいものを欲しいと宣言して、
堂々とそれを手に入れ喜んでいる人を見ると、
羨ましいというよりすごいなと思う。
そんな世界もあり得るのだと。

そんな世界を信じたいが為か、
自分が人から何かを望まれたときは、
毎回とはいえずとも可能な限りはそれを叶えたいと思っている。
例えどんなに小さな望みでも。
例えどんな相手であっても。

この先もずっとずっとこうあるのかは、分からないけれど。

ある時抱いてしまった、
たったひとつの消すことのできない願いは、
一生持ち続けたまま、叶うことなく終わるのかな。

けれどそんな儚い希望が、
この頼りない日々を明日へと繋いでゆくのかもしれない。

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「ああ、綺麗なものを見たいさ、予定調和でいきたいさ、
 お約束もバカの一つ覚えの展開も愛してるよ。それの何が悪いってんだ。
 ……現実でそれを目指して何が悪いんだよ! 現実だから目指すんだろ!
人の為とは言わないさ、結局はそれを見て自分が楽しいからやるんだ!
 ああ、こんなのありふれた考えさ。ありふれた事っていうのは、
 それだけ皆がその事を考えてるってことなんだよ!」

成田良悟デュラララ!!

デュラララ!! (電撃文庫)

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