かいじゅうたちのいるところ/Dir スパイク・ジョーンズ

映画「マルコヴィッチの穴」や、数々のクールなCMやPVを生み出してきたスパイク・ジョーンズが、モーリス・センダックの世界的ベストセラー絵本を映画化したということで、見てきました、「かいじゅうたちのいるところ」。

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母や姉に構ってもらえず、孤独をもてあましていた少年マックス。ある晩母とけんかして家を飛び出したら、そこは「かいじゅう」たちの棲む、見たこともない島だった。彼はかいじゅうたちの王様となって、「楽しいことばかりの場所」を作ろうとするけれど……。

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原作では、ただ数枚の絵のみで表現されているかいじゅうの島での出来事を、2時間もの映画に仕立て上げるには、この絵本の世界を、広く、豊かに、そして何度も、旅しなければならなかっただろうと思った。子どもの視点や激しく揺れ動く感情を意識した不安定なカメラワークが、いかにもこの監督らしく、いつの間にか子ども側の世界に引き込まれる。こだわりにこだわったであろうかいじゅうたちの造詣も、言うまでもなく見事だ。そして何より、全身で子ども特有の矛盾に満ちた姿を表現しているマックスは、演技とは思えないほど、どこにでもいる男の子としてスクリーンの中で自然に生きている。

大人が普通に見て楽しめるようなストーリー性は乏しいけれども、マックス少年に自分の幼い頃を重ねたり、いいやつだけどちょっと乱暴なキャロルや、いつも理屈っぽいダグラスなど、個性的なかいじゅうたちの中に知り合いの誰かを見つけることで初めて、遠い遠い童話の世界を、自分のものに出来るのかもしれない。

もちろんこうした冒険譚の約束通り、
最後にマックスは自分の家に帰るのだけれど、
あの世間の残酷さから隔離された美しい世界に、
ずっとずっといられたらよかったのにと思う私は、
いつまで夢から覚めるのを嫌がる子どものままなのだろう。

かいじゅうたちのいるところ

かいじゅうたちのいるところ