寒さと共に思い出すのは、幸福だった時の思い出とそれを失った時の痛みと。

いったん秋に入ってしまうと、
そこから冬に至るまでの流れは、泣きたくなるほど早い。
あっという間に日が暮れて、
自分だけが世界に取り残されたような気持ちになる。

視覚的にも、ほとんどワイシャツ姿だった外回りのサラリーマン達が
背広を着込んで歩くようになると、
急にその気配が高まったように見えてくる。

ああまたこの季節がやって来たのだと、
それだけでなんだかさびしくなる。

この時期にこんな想いに駆られて、
こんな風に辛くなるのは、自分だけなのだろうか。
誰ともこんな話をすることはないし、
誰もが普通の顔をして通り過ぎていくから、分からないけれど。

だから、ふとした空白の時間に
ああ、あの人はどこで何を想って過ごしているんだろうなんて
詮ないことを考えてしまうのだ。

そしてまた我に返ったとき、
バカみたいと笑ってみる。誰も見ていないのに。
空元気だって、立派な元気の一種だろう。
そんな、落ちた自分ととことん向き合って、
季節が通り過ぎてゆくのを待つのも、
それはそれで、アリだろう。

                                      • -

「どうしていつも
 僕のいない世界はこんなにもキレイなんだろう
 あの日君が見つけてくれた僕を
 結局 僕自身がいらないものにしてしまった
 でもそれでも
 この痛みをなくして身体をなくして
 目の玉だけの存在になっても
 僕はずっとあの横顔を見ていたい
 神さまそれは
 僕のエゴでしょうか」

たなかのか「タビと道づれ 4」

タビと道づれ 4 (BLADE COMICS)

タビと道づれ 4 (BLADE COMICS)