第9地区/Dir ニール・ブロムカンプ

南アフリカ共和国上空に飛来した巨大宇宙船。しかし、乗船していたエイリアンたちは、地球を侵略するどころか、弱りきっていた……。難民として彼らが住み着くことになったヨハネスブルクの「第9地区」は、地元ギャングによる違法売買が横行する不潔なスラム街へと成り果てていく。彼らの管理事業を委託された民間企業MNU社は、エイリアンの第10地区への強制移住を決定。その責任者に任命された主人公ヴィカスは、計画遂行の過程で、謎のウィルスに感染してしまい、そのことによって、人類、エイリアン、スラムギャング間の激しい戦いに巻き込まれていく……。

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見事なまでにB級で、最初から最後までダーティ。
けれど、だからこそいい。そんな映画。

古今東西、幾千もの映画で、宇宙人ないしエイリアンは、人の存在を脅かすものとして描かれてきた。けれどこの映画の中のエイリアンは、まるでエビに突然変異が起きたかのような、グロテスクで簡単に人を噛み殺せそうな姿をしていながら、支配され、差別され虐げられ、好物の猫缶を食べるためにギャングと割に合わない取引してしまうような「人間くささ」まで持ち合わせている。

けれど、いまだ、こんな小さな星のわずかな人種間で争いを止めることのできない私たちにとっては、こっちこそがまさに、未来に起こり得る宇宙人との共存の形かもしれないと思わされる。

また、主人公ヴィカスが、かっこよくエイリアン討伐に行くヒーローなんかではなくて、とことん普通なおじさんであるところもいい。会社から大きなプロジェクトを任されてはりきっちゃうところとか、うっかりエイリアンに感情移入しちゃうところとか、奥さんを普通に愛しているところだとか。

そんな中、差別批判や社会風刺やがところどころに見え隠れするけれど、あくまでそれは隠し味的なスパイスであって、B級映画の作法を守り、作品の世界の中に自然に染み込ませているところは、監督のバランス感覚のすばらしさなのかなと感じた。

笑いあり、ハートウォーミングあり、ど派手な戦闘あり、エイリアンあり、ロボットありで、お腹いっぱいにさせてくれた映画。

なんとなく、「第9地区」というより、原題の"District 9"という響きの方が、かっこいい。


第9地区 Blu-ray&DVDセット(初回限定生産)

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