[リミット]/Dir ロドリゴ・コルテス

イラクでトラックの運転手をしていたアメリカ人、ポール・コンロイ。彼が目を覚ましたのは、地中深くに埋められた棺の中だった。彼が持っているのは、オイルの尽きかけたライター、電池切れ間近の見知らぬ携帯電話。酸素が尽きるまでは、あと90分。果たして彼に何が起きたのか?犯人の目的とは?そして、唯一の外部との接触手段である携帯電話を使って、そこから脱出することはできるのか……。
 

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観る前から、苦しくなるような映画だ。
 
なんせ映画の舞台は、立ち上がることさえできないほどの、狭くて暗い棺の中のみ。登場人物はもちろん、主人公1人。これまでさまざまなワンシチュエーション・ムービーが作られてきたとはいえ、これほど状況を制限された映画は、なかなか観たことがない。それだけでも、この映画を観たいという動機づけには十分過ぎるほどだろう。どうやって映画を成立させたのか?という好奇心だけで。
 
まず心配になるのは、ずっと棺の中で画がもつのか?ということだろう。もちろん変化に乏しいのはどうしようもないが、寄り引きの細かなカメラワーク、主人公の不安定な状態を表すように揺らぐ照明、そして小道具を上手く駆使することで、なんとか成立させていた。またそこに、棺の軋みや、携帯の着信音や電話の向こう側の声、主人公の呼吸など、音の演出が上手く絡み合い、当然感じるであろう飽きを少し遠ざけることに成功している。
 
一方、物語を進行していく鍵は、携帯電話だ。特に後半は、これでもかというくらい携帯の機能を駆使した展開になる。主人公にとっては、唯一の救いの希望でありながら、当然、電話の向こうの人々にとってはそうではない。コミュニケーションが思うようにいかない。携帯電話で担保される「繋がり」が、こんなにも希薄で頼りないものだということに、改めて気付かされる。
 
ただ、これでもかという工夫はありながらも、単調さは拭いきれないし、ストーリーも若干ご都合主義的に感じる部分はある。けれど、ちゃんと通しで映画として、それなりに感情移入して観られたという点だけでもかなり感心した。純粋な作品としての評価ではないかもしれないけれど、こんな挑戦ができるというだけで、素敵なことだ。
 
ヒッチコックの「救命艇」や「ロープ」にヒントを得て作られたというこの作品。冒頭のタイトルムービーは、ヒッチコック作品でおなじみのソウル・バス風になっているのが、ファンとしてはちょっと嬉しいところ。
 
 
制約の中でどんな挑戦をして、発見をして、何を作り上げるのか、という点において、
刺激的な作品であることには間違いない。
 

[リミット] コレクターズ・エディション [DVD]

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